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抵当権付き不動産の売却方法|売買時の税金や注意点を解説

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檜垣知宏:宅地建物取引士

この記事のポイント

  • 抵当権付き不動産はローン完済・抹消を条件に売却可能

  • 売却代金でローンを完済し、引き渡しと同時に抹消する

  • 売却価格がローン残高を下回る場合は自己資金が必要

住宅ローンを利用して購入した不動産には、金融機関の抵当権が設定されています。
この抵当権付きの不動産を売却するには、原則としてローンを完済し、抵当権を抹消する手続きが必要です。

不動産の売買では、売却代金をローン返済に充てる方法が一般的ですが、その手続きの流れや費用、発生する税金について正しく理解しておくことが求められます。
この記事では、抵当権付き不動産の売却方法や注意点を具体的に解説します。

目次

そもそも抵当権とは?住宅ローンと密接な関係

抵当権とは、住宅ローンなどでお金を借りる際に、不動産を担保にする権利のことです。
万が一ローンの返済が滞った場合、金融機関などの債権者はこの抵当権を実行し、担保となっている不動産を競売にかけることで、貸したお金を回収します。

多くの人が住宅ローンを組んでマイホームを購入するため、その不動産には金融機関の抵当権が設定されているのが一般的です。
事業資金の融資などで繰り返し借り入れと返済ができるように設定される根抵当権とは異なり、住宅ローンの抵当権は、ローンを完済すれば消滅する性質を持っています。

抵当権が付いたままの不動産でも売却は可能

抵当権が設定されたままでも不動産の売却活動を行うことは法的に問題ありません。
不動産会社と媒介契約を結び購入希望者を探すことができます。

しかし最終的に買主へ所有権を引き渡すまでには住宅ローンを全額返済し抵当権を抹消する必要があります。
なぜなら抵当権が付いたままの不動産を購入する買主はほとんどいないからです。

買主も住宅ローンを利用する場合金融機関はすでに抵当権が付いている不動産への融資を認めないため取引が成立しません。
そのため売却の決済日に売却代金でローンを完済し抵当権抹消と所有権移転を同時に行うのが一般的です。

抵当権付き不動産を売却する3つの方法

抵当権が設定されている不動産を売却するには、ローンを完済して抵当権を抹消する必要があります。
そのための資金をどのように準備するかによって、主に3つの方法が考えられます。

一つ目は、自己資金で先にローンを完済する方法、二つ目は不動産の売却代金で完済する方法です。
そして、ローンの返済が困難な状況に陥っている場合は、任意売却という選択肢もあります。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、自身の資金状況や不動産の査定額に応じて最適な手段を選ぶことが重要です。

方法1:自己資金で住宅ローンを完済してから売る

一つ目の方法は、売却活動を始める前や売買契約後に、自己資金で住宅ローンを完済し、抵当権抹消の手続きを済ませてから不動産を売るというものです。
この方法の利点は、抵当権という権利上の制約がない状態で売却できるため、買主との交渉や手続きがスムーズに進みやすい点です。

また、売却を急ぐ必要がなくなり、より良い条件での売却を目指せる可能性も高まります。
ただし、ローン残高に相当するまとまった自己資金を用意しなければならないため、誰にでも選択できる方法ではありません。
資金的な余裕がある場合に検討できる選択肢といえます。

方法2:不動産の売却代金でローンを完済する

最も一般的な方法が、不動産の売却によって得た代金で住宅ローンを完済し、抵当権を抹消する方法です。
この場合、買主から売却代金を受け取る決済(引き渡し)の日に、ローンの完済、抵当権抹消登記、そして買主への所有権移転登記を同時に行います。

手続きは司法書士が立ち会って進めるため、売主が複雑な手続きを一人で行う必要はありません。
この方法であれば、自己資金がなくても抵当権付き不動産の売却が可能です。
ただし、売却価格がローン残高を上回っていることが前提となります。
もし下回る場合は、その差額を自己資金で補填しなければなりません。

方法3:ローン返済が困難な場合は任意売却を検討する

住宅ローンの返済が滞るなど、経済的に困難な状況にある場合は、任意売却という方法を検討します。
任意売却とは、債権者である金融機関の合意を得た上で、抵当権付きの土地や建物を市場で売却する方法です。

通常、ローンを完済しなければ抵当権は抹消できませんが、任意売却では売却代金で完済できない場合でも、金融機関の同意のもとで売却を進めることができます。

競売にかけられる場合に比べて市場価格に近い価格で売却できる可能性が高く、残った債務の返済方法についても柔軟な交渉が可能です。
ただし、手続きが複雑で時間もかかるため、早めに不動産会社や専門家に相談することが不可欠です。

売却時に必要な抵当権抹消登記の4つの手順

抵当権付き不動産を売却する際には、住宅ローンを完済した後に、法務局で抵当権抹消の登記申請を行う必要があります。
この手続きを完了させないと、登記簿上には抵当権が残ったままとなり、買主に所有権を完全に移転させることができません。

抵当権抹消登記は、ローン完済から書類の受領、法務局への申請、そして手続き完了まで、大きく4つのステップに分かれます。
ここでは、その具体的な手順を順に解説します。

ステップ1:住宅ローンを全額返済する

抵当権抹消登記の最初のステップは、前提条件である住宅ローンを全額返済することです。
不動産の売却代金で完済する場合は、決済日に買主から売却代金を受領し、その足で金融機関の窓口へ向かい、一括返済の手続きを行います。

事前に金融機関へ一括返済する旨を連絡し、決済日当日に必要な返済総額(元金、利息、手数料など)を正確に確認しておくことが重要です。
自己資金で返済する場合も同様に、金融機関へ連絡し、指定された金額を振り込むか窓口で支払うことでローンを完済します。
この返済が完了しなければ、次のステップに進むことはできません。

ステップ2:金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取る

住宅ローンを完済すると、金融機関から抵当権抹消登記に必要な書類一式が交付されます。
通常、完済後1週間から10日ほどで郵送または窓口で受け取ることができます。
主な書類は、抵当権設定契約書(登記済証)または登記識別情報通知、登記原因証明情報(解除証書や弁済証書)、そして金融機関の委任状です。

これらの書類は再発行が難しいものも含まれるため、受け取ったら紛失しないように厳重に管理しなければなりません。
司法書士に手続きを依頼する場合は、これらの書類をそのまま預けることになります。

ステップ3:法務局で抵当権抹消の登記申請を行う

金融機関から受け取った書類が揃ったら、不動産を管轄する法務局で抵当権抹消の登記申請を行います。
自分で手続きを行う場合は、法務局のウェブサイトで申請書の様式をダウンロードして作成し、必要書類を添付して窓口に提出するか、郵送で申請します。

申請書には、不動産の表示や申請人の情報、登録免許税額などを正確に記載する必要があります。
売却に伴う抹消手続きでは、買主への所有権移転登記と同時に申請することが一般的であり、手続きの確実性を期するために司法書士に依頼するケースがほとんどです。

ステップ4:登記完了証を受け取って手続き完了

登記申請後、法務局での審査に問題がなければ、通常1週間から2週間程度で登記手続きが完了します。
手続きが完了すると、法務局から登記完了証が交付されます。
この登記完了証を受け取ることで、一連の抵当権抹消手続きは終了です。

登記完了証は再発行されない大切な書類なので、不動産の権利証などと一緒に保管しておきます。
念のため、手続き完了後に登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、登記簿の乙区(権利部)から抵当権の記載が抹消されているかを自分の目で確認しておくと、より安心です。

抵当権抹消にかかる費用の内訳

抵当権の抹消手続きには、いくつかの費用が発生します。
主な内訳は、登記申請時に国へ納める「登録免許税」、登記内容を確認するための「登記事項証明書の発行手数料」、そして手続きを専門家である司法書士に依頼する場合の「司法書士への報酬」です。

これらの費用は、売主が負担するのが一般的です。
不動産の個数や依頼する司法書士によって総額は変動するため、事前にどの程度の費用が必要になるか把握しておくことが大切です。

登記手続きに必要な登録免許税

抵当権抹消登記を申請する際には、登録免許税という税金を国に納める必要があります。
この税額は、不動産1筆につき1,000円と定められています。

例えば、土地1筆と建物1棟の不動産であれば、合計2筆と数えるため、登録免許税は2,000円となります。
マンションの場合、土地の筆数が複数にわたることがあり、その場合は土地の筆数分の登録免許税が必要です。

この税金は、登記申請書に税額分の収入印紙を貼り付けて納付するのが一般的です。
自分で手続きを行う場合でも、司法書士に依頼する場合でも必ず発生する費用です。

登記簿謄本などの発行手数料

抵当権抹消手続きの際には、登記内容を確認するために登記事項証明書を取得する費用がかかります。
登記申請前に、対象不動産の正確な情報を確認するために取得し、手続き完了後には、抵当権が間違いなく抹消されたかを確認するために再度取得することが推奨されます。

登記事項証明書の発行手数料は、法務局の窓口で請求すると1通600円オンライン請求・郵送受取の場合は500円オンライン請求・窓口受取の場合は480円です。
司法書士に依頼した場合、これらの取得費用は実費として請求されるのが一般的です。

専門家に依頼する場合の司法書士への報酬

抵当権抹消登記の手続きは自分で行うことも可能ですが、不動産売却に伴う手続きは複雑で、決済と同時に確実に行う必要があるため、司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士に依頼した場合、その報酬が発生します。

抵当権抹消登記のみを依頼する場合の報酬相場は、1万円から2万円程度です。
不動産売買の決済時には、所有権移転登記と同時に行われることがほとんどで、その場合は所有権移転登記の報酬と合わせて請求されます。
報酬額は依頼する司法書士事務所によって異なるため、事前に見積もりを確認しておくと良いでしょう。

抵当権付き不動産の売却で課される税金

抵当権付き不動産の売却においても、通常の不動産売却と同様に税金が課されます。
特に重要なのが、売却によって利益が出た場合に課される「譲渡所得税・住民税」と、売買契約書を作成する際に必要となる「印紙税」です。

これらの税金は、売却の諸費用として計算に入れておく必要があります。
税金の計算方法や適用される控除などを事前に理解しておくことで、納税資金の準備や節税対策を計画的に進めることが可能になります。

売却益にかかる譲渡所得税・住民税

不動産を売却して得た利益は「譲渡所得」と呼ばれ、これに対して所得税と住民税が課されます。
譲渡所得は、売却価格からその不動産の購入費用(取得費)と売却にかかった費用(譲渡費用)を差し引いて計算します。
利益が出なければこの税金はかかりません。

税率は不動産の所有期間によって異なり、所有期間が5年以下の場合は「短期譲渡所得」、5年を超える場合は「長期譲渡所得」として、それぞれ異なる税率が適用されます。

マイホームの売却の場合、「3,000万円の特別控除」などの特例が利用できる場合があり、適用できれば税負担を大幅に軽減できる可能性があります。

売買契約書に貼付する印紙税

不動産の売買契約書は印紙税法上の課税文書に該当するため、契約書に記載された金額に応じた収入印紙を貼り付けて納税する義務があります。
この税金を印紙税と呼びます。

税額は契約金額によって段階的に定められており、例えば契約金額が1,000万円超5,000万円以下の場合、本則税率は2万円です。
ただし、現在は租税特別措置法により軽減措置が適用されており、同じ契約金額でも税額は1万円に軽減されます。

印紙税は契約書1通ごとに必要で、売主と買主がそれぞれ保管する契約書を作成する場合は、各自が自身の契約書に貼付する印紙代を負担するのが一般的です。

抵当権付き不動産を売却する際の注意点

抵当権付き不動産を売却するプロセスは、通常の不動産売却と大きくは変わりませんが、抵当権の存在ゆえに特に注意すべき点がいくつかあります。

売却価格とローン残高の関係や、各種登記手続きのタイミング、相続した不動産に潜むリスクなど、事前に把握しておくべきポイントを理解することで、予期せぬトラブルを避け、スムーズな取引を実現できます。
ここでは、売却を成功させるために押さえておきたい3つの重要な注意点を解説します。

売却価格がローン残高を下回るオーバーローンに注意

売却する上で最も注意すべき点の一つが、不動産の売却価格が住宅ローンの残高を下回る「オーバーローン」の状態です。
抵当権を抹消するにはローンを完済する必要があるため、売却代金だけでは返済額に足りない場合、その差額を自己資金で補填しなければなりません。

預貯金などで差額を準備できなければ、売却自体が不可能になります。
そのため、売却活動を始める前に、不動産会社に査定を依頼して売却できそうな価格を把握し、現在のローン残高と比較しておくことが極めて重要です。
これにより、売却計画を現実的に立てることができます。

抵当権抹消と所有権移転は同時に行うのが一般的

不動産売買の取引では、買主の権利を守り、安全性を確保するために、決済日に複数の手続きを同時に行います。
具体的には、買主からの売却代金の受領、売主の住宅ローン完済、抵当権抹消登記の申請、そして買主への所有権移転登記の申請です。

これら一連の手続きを同日に行うことで、売主は確実に代金を受け取れ、買主は抵当権のないクリーンな状態で所有権を取得できます。
通常は司法書士が決済に立ち会い、必要書類を確認した上で、責任を持って登記申請を代行するため、手続きが滞る心配は少なくなります。

相続した不動産に抵当権がないか確認する

親などから相続した不動産を売却する場合、まずはその不動産に抵当権が設定されていないかを確認することが重要です。
被相続人がローンを完済していたとしても、抵当権の抹消登記手続きを忘れているケースが稀にあります。
登記簿上に抵当権が残ったままでは、売却手続きを進めることができません。

抵当権の有無は、法務局で登記事項証明書を取得し、権利部の「乙区」を確認すれば分かります。
もし抵当権が残っていた場合は、相続人が金融機関と連絡を取り、必要な書類を揃えて抹消登記を行う必要があります。

まとめ

抵当権付き不動産の売却は、住宅ローンを完済し、抵当権を抹消することを条件に可能です。
多くのケースでは、不動産の売却代金をローン完済に充当し、決済日に所有権移転登記と抵当権抹消登記を同時に行います。
この方法であれば、手元に大きな資金がなくても売却を進められます。

ただし、売却価格がローン残高を下回るオーバーローンの場合は、不足分を自己資金で賄う必要があります。
売却を検討する際は、まず不動産の査定額とローン残高を正確に把握し、計画的に手続きを進めることが求められます。

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檜垣知宏:宅地建物取引士

株式会社ライフアドバンス代表取締役の檜垣知宏です。 2014年8月に設立し、恵比寿不動産という屋号で賃貸仲介・売買仲介・賃貸管理を行う不動産業者です。 不動産業界歴15年の経験を生かし、 運営しているサービスサイトである「不動産の相談窓口」の運営者も務めております。

保有資格:宅地建物取引士