不動産売却や不動産購入を進める際、避けて通れないのが登記手続きとそれに伴う登記費用です。
この費用は数十万円に及ぶこともあり、諸費用の中でも大きな割合を占めます。
この記事では、登記費用の内訳や相場、誰がどの費用を負担するのかといった基本的な知識から、具体的な計算方法、費用を抑えるためのコツまでを網羅的に解説します。
事前に費用の全体像を把握し、計画的な資金準備に役立ててください。

不動産売買で登記手続きが欠かせない理由

不動産登記とは、土地や建物といった不動産の物理的な状況と、所有権などの権利関係を法務局の登記簿に記録し、社会に公示する制度です。
不動産売買において登記手続きが不可欠なのは、この登記が「第三者対抗要件」となるためです。
つまり、売買契約を締結しただけでは、その不動産の所有権が自分のものであることを、売主から二重に不動産を購入した人などの第三者に対して主張できません。
登記簿に自分の名前を所有者として記録して初めて、法的に所有権を保護されます。
この手続きを怠ると、高額な不動産を失うリスクを負うことになり、取引の安全性を確保する上で極めて重要な役割を果たします。
不動産売買の登記費用は2つの料金で構成される

不動産売買に伴う登記費用は、売却や購入にかかる諸経費の一部であり、主に2つの要素で構成されています。
一つは、登記手続きを行う際に国に対して納める「登録免許税」という税金です。
もう一つは、複雑な登記手続きを代行する専門家である司法書士に支払う「司法書士報酬」です。
一般的に「登記費用」という場合、これら2つを合計した金額を指します。
登録免許税は法律で税率が定められているため、誰が計算しても同じ金額になりますが、司法書士報酬は事務所によって異なるため、総額に差が生じる要因となります。
国に納める税金「登録免許税」
登録免許税は、不動産の権利に関する登記を法務局に申請する際に納付が義務付けられている国税です。
この税額は、登記費用の大部分を占めることが多く、その計算方法は法律によって明確に定められています。
具体的には、課税標準となる不動産の価額に、登記の種類ごとに定められた税率を乗じて算出されます。
不動産の価額には、原則として市区町村が管理する固定資産課税台帳の登録価格、いわゆる「固定資産税評価額」が用いられます。
売買による所有権移転登記や、住宅ローンを組む際の抵当権設定登記など、行う登記の内容によって税率が異なるため、事前に自身のケースに適用される税率を確認しておくことが重要です。
算出された税額は、収入印紙を登記申請書に貼付する形で納付します。
専門家への依頼料「司法書士報酬」
司法書士報酬は、不動産登記に関する専門的な手続きを司法書士に依頼した場合に支払う手数料です。
不動産売買の登記は、権利関係が複雑で、決済と同時に間違いなく申請を完了させる必要があるため、専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。
この報酬額は、以前は規定がありましたが、現在は自由化されており、各司法書士事務所が独自に設定しています。
そのため、同じ登記内容を依頼しても事務所によって金額が異なります。
報酬の内訳には、登記申請書の作成や法務局への申請代行といった手数料のほか、交通費や登記事項証明書の取得費用などの実費が含まれることもあります。
一般的に、報酬の相場は5万円から15万円程度ですが、手続きの難易度によって変動します。
【立場別】不動産売買の登記費用は誰が負担する?

不動産売買における登記費用の負担者については、法律で明確に「売主が負担する」「買主が負担する」といった定めはありません。
しかし、取引の慣行として、それぞれの登記が誰の利益になるかという観点から、売主と買主が分担して負担するのが一般的です。
具体的には、買主に完全な所有権を引き渡すための前提となる登記は売主が、買主が自身の権利を保全するための登記は買主が負担します。
契約前には、不動産会社の担当者から誰がどの費用を負担するのか説明があるため、内容をよく確認し、認識の相違がないようにしておくことが大切です。
売主が負担する登記費用の種類と相場
不動産の売却において、売主が負担する登記費用は、買主へ不動産の所有権を完全に移転できる状態にするための手続きに関連するものです。
主なものとして、住宅ローンを完済した際の「抵当権抹消登記」や、登記簿上の住所と現住所が異なる場合の「住所変更登記」が挙げられます。
これらの登記は、売主側の事情を整理し、クリーンな状態で不動産を引き渡すために必要な手続きであるため、売主負担となるのが通例です。
相続した不動産を売却する場合は、その前提として「相続登記」も必要となり、これも売主の負担となります。
住宅ローン完済時に必要な「抵当権抹消登記」
抵当権抹消登記は、売却する不動産に設定されている住宅ローンを完済し、金融機関が持っていた抵当権を登記簿から抹消するための手続きです。
買主は住宅ローンのないクリーンな状態で所有権を取得することを望むため、売買代金の決済時にローンを完済し、それと同時に抵当権を抹消するのが一般的です。
この手続きにかかる費用は、売主が負担します。
登録免許税は、土地と建物のそれぞれに対して1,000円ずつ、合計で2,000円かかるのが基本です。
司法書士に依頼した場合の報酬を含めると、総額で1万5,000円から2万円程度が相場となります。
売却代金でローンを完済する場合、決済の場で司法書士が手続きを代行します。
登記簿と現住所が違う場合の「住所変更登記」
登記簿に記載されている所有者の住所と印鑑証明書に記載されている現住所が一致しない場合、所有権を移転する前提として住所変更登記が必要になります。
結婚による氏名の変更があった場合も同様に氏名変更登記が求められます。
これは登記簿上の人物と売主が同一人物であることを公的に証明するために不可欠な手続きです。
引っ越しをしたにもかかわらず住所変更登記を怠っているケースは少なくありません。
この登記にかかる費用は住所変更の経緯を整理する責任がある売主が負担します。
登録免許税は不動産1つにつき1,000円で司法書士に依頼した場合の報酬と合わせ1万円から2万円程度が費用の目安です。
相続した不動産を売る際の「相続登記」
親などから相続した不動産を売却する場合、まず不動産の名義を亡くなった被相続人から相続人へ変更する「相続登記」を完了させる必要があります。
この手続きを経なければ、相続人は法的にその不動産の所有者とは認められず、第三者へ売却することができません。
2024年4月からは相続登記が義務化されており、過去に相続した不動産も対象となります。
相続登記にかかる費用は売主の負担です。
登録免許税は、不動産の固定資産税評価額の0.4%と定められています。
司法書士報酬は、相続人の数や遺産分割協議書の作成の有無など、事案の複雑さによって変動しますが、おおむね5万円から15万円程度が目安となります。
買主が負担する登記費用の種類と相場
不動産の購入にあたり、買主が負担する登記費用は、主にその不動産の所有権を自分の名義にするための手続きと、住宅ローンを利用する際の手続きに関連するものです。
具体的には、不動産の所有権が売主から自分に移ったことを公示する「所有権移転登記」と、住宅ローンを組む金融機関が不動産を担保に取るための「抵当権設定登記」が該当します。
これらの登記は買主自身の権利確保や資金調達のために行うものであるため、その費用は買主が負担するのが取引の慣例です。
不動産の名義を変更する「所有権移転登記」
所有権移転登記は、不動産売買において最も中心となる登記手続きで、その不動産の所有者が売主から買主に変わったことを法的に確定させ、登記簿に記録するものです。
この登記により、買主は第三者に対して所有権を主張できるようになります。
費用は買主が負担するのが一般的です。
登録免許税は、土地と建物で税率が異なり、軽減措置の適用有無によっても大きく変動します。
例えば、中古のマンションを購入し、一定の要件を満たす場合は税率が大幅に軽減されます。
司法書士報酬を含めた総額は、不動産の価格にもよりますが、数十万円にのぼることも珍しくなく、登記費用の中で最も高額になる部分です。
住宅ローンを組む際の「抵当権設定登記」
住宅ローンを利用して不動産を購入する場合、融資を行う金融機関はその貸付金を保全するため、購入する不動産を担保とします。
この担保権を「抵当権」といい、それを登記簿に記録する手続きが抵当権設定登記です。
万が一ローンの返済が滞った場合、金融機関はこの抵当権に基づいて不動産を競売にかけ、貸付金を回収します。
この登記は、融資を受ける買主のために行われるため、費用は買主が負担します。
登録免許税の額は、住宅ローンの借入額(債権額)に税率を乗じて計算され、本則は0.4%ですが、マイホーム購入の場合は要件を満たせば0.1%に軽減されます。
司法書士報酬と合わせて、数万円から十数万円程度が費用の目安です。

登記費用の大部分を占める「登録免許税」の計算方法

登記費用の中でも特に大きな割合を占めるのが登録免許税です。
この税額は、自身である程度の概算をすることが可能です。
登録免許税を算出するためには、計算の基礎となる「固定資産税評価額」と、登記の種類や不動産の種類によって定められている「税率」の2つの要素を理解する必要があります。
これらの情報をもとに計算式に当てはめることで、必要な費用の目安を把握でき、余裕を持った資金計画を立てることにつながります。
登録免許税の計算式:固定資産税評価額 × 税率
登録免許税を算出するための基本的な計算式は「課税標準×税率」です。
不動産売買による所有権移転登記など多くの場合、この「課税標準」には、不動産の固定資産税評価額が用いられます。
固定資産税評価額は、市区町村が決定するその不動産の公的な価格であり、毎年春頃に送付される固定資産税の納税通知書に記載されています。
また、市区町村の役所や都税事務所で「固定資産評価証明書」を取得することでも確認可能です。
この評価額に、登記の種類に応じて定められた税率を乗じることで、納付すべき登録免許税額が算出されます。
なお、計算して得られた金額のうち、1,000円未満は切り捨てて、100円未満の端数は切り捨てて計算します。
土地と建物で異なる登録免許税の税率
登録免許税の税率は、登記の種類だけでなく、不動産の種類によっても異なる点に注意が必要です。
特に、売買を原因とする所有権移転登記においては、土地と建物で適用される税率が違います。
建物の本則税率は2.0%ですが、土地の売買については租税特別措置法により、2026年3月31日まで税率が1.5%に軽減されています。
したがって、土地付き一戸建てを購入した場合は、土地の固定資産税評価額と建物の固定資産税評価額をそれぞれ分け、異なる税率を適用して登録免許税を計算し、最後に合算する必要があります。
このように、不動産の種類に応じた正しい税率を把握することが、正確な費用計算の第一歩となります。
税負担を軽くする軽減措置の適用条件
登録免許税には、特定の要件を満たす住宅用の家屋に対して税率を引き下げる軽減措置が設けられています。
この措置を活用することで、税負担を大幅に軽くすることが可能です。
主な適用対象は、自己の居住用として不動産を取得した場合の所有権移転登記や抵当権設定登記です。
具体的な適用要件としては、登記上の床面積が50平方メートル以上であること、取得後1年以内に登記されること、そして新耐震基準に適合していること(例えば木造であれば築20年以内)などが挙げられます。
この軽減措置を受けるためには、登記を申請する際に、物件所在地の市区町村役場で取得した「住宅用家屋証明書」を法務局に提出する必要があります。
不動産登記の手続きで必要になる主な書類一覧

不動産の登記手続きをスムーズに進めるためには、事前の書類準備が非常に重要です。
売主と買主、それぞれの立場で必要となる書類は異なり、中には市区町村の役所や法務局で取得しなければならないものもあります。
司法書士に手続きを依頼する場合でも、本人でなければ取得できない印鑑証明書など、自身で準備すべき書類は少なくありません。
決済日当日に書類が不足すると、取引自体が延期になる可能性もあるため、不動産会社や司法書士の指示に従い、計画的に準備を進めることが求められます。
売主側で準備が必要な書類
不動産を売却する売主は、所有権を買主に移転するために、その不動産の正当な所有者であることを証明する書類などを準備する必要があります。
最も重要なのが、不動産の権利証である「登記済権利証」または「登記識別情報通知」です。
これらを紛失した場合は、別途、司法書士による本人確認情報作成などの手続きが必要となり、追加の費用と時間がかかります。
その他、実印と発行から3ヶ月以内の「印鑑証明書」、登記簿上の住所と現住所が異なる場合にそれを証明するための「住民票」、登記申請を司法書士に委任するための「委任状」が必要です。
また、登録免許税の計算に用いる「固定資産評価証明書」や、本人確認のための運転免許証なども準備します。
買主側で準備が必要な書類
不動産を購入する買主は、新たに所有者として登記するために必要な書類を準備します。
まず、新しい登記名義人の住所を証明するための住民票が必要です。
売主と同様に、手続きを司法書士に委任するための委任状に署名・押印する必要があり、その際には実印が求められます。
したがって、実印と印鑑証明書も用意しておかなければなりません。
住宅ローンを利用する場合は、金融機関との間で締結した金銭消費貸借契約書などの関連書類も必要となります。
また、登録免許税の軽減措置の適用を受ける場合は、物件所在地の市区町村役場で住宅用家屋証明書を事前に取得しておく必要があります。
不動産売買の登記費用を少しでも安く抑える3つのコツ

不動産売買における登記費用は、時に大きな出費となりますが、いくつかの方法を実践することで節約が可能です。
具体的には、司法書士への依頼方法を工夫したり、利用できる税の軽減措置を漏れなく活用したりすることが挙げられます。
多くの場合、不動産会社から提携している司法書士を紹介されますが、必ずしもそこに依頼する必要はありません。
費用を抑えるためには、任せきりにするのではなく、自ら主体的に情報を収集し、比較検討する姿勢が大切です。
司法書士に頼まず自分で登記手続きを行う
登記費用を節約する最も直接的な方法は、司法書士に依頼せず、自分で登記申請手続きを行うことです。
これを「本人申請」と呼びます。
本人申請を行えば、司法書士に支払う数万円から十数万円の報酬を完全に節約できます。
しかし、登記申請には専門的な知識が必要で、書類の収集や作成、法務局での手続きに多くの時間と労力がかかります。
特に不動産売買では、代金決済と所有権移転を同日に行うため、手続きに不備があると取引全体に影響を及ぼすリスクがあります。
また、住宅ローンを利用する場合、金融機関は融資の条件として司法書士による登記手続きを必須とすることがほとんどのため、自分で登記できるケースは限定的です。
複数の司法書士事務所から見積もりを取る
司法書士報酬は事務所によって料金設定が異なるため、複数の事務所から見積もりを取得し比較検討することが、費用を抑えるための現実的かつ効果的な方法です。
不動産会社から紹介された司法書士にそのまま依頼するのが一般的ですが、その費用が適正であるかを確認するためにも、他の事務所の料金を調べてみる価値はあります。
インターネットで近隣の司法書士事務所を探し、電話やメールで不動産の状況を伝えて見積もりを依頼します。
その際、報酬額の内訳が明確に記載されているかを確認することが重要です。
単に料金の安さだけでなく、対応の丁寧さや説明の分かりやすさなども含めて総合的に判断し、信頼できる司法書士を選ぶことが求められます。
登録免許税の軽減措置を活用する
登記費用の大半を占める登録免許税は、税の軽減措置を適用することで大幅に削減できます。
特に、個人が自身の居住用として住宅を購入する場合、所有権移転登記や抵当権設定登記の税率が通常よりも低く抑えられる特例があります。
この軽減措置が適用できるか否かで、納税額は数十万円単位で変わることもあります。
適用を受けるためには、建物の床面積や築年数といった一定の要件を満たす必要があります。
自身の購入する物件が対象となるか、事前に不動産会社や司法書士に確認することが不可欠です。
適用には「住宅用家屋証明書」の取得が必要になるため、忘れずに手続きを進めるようにします。

まとめ
不動産売買における登記費用は、「登録免許税」と「司法書士報酬」という2つの要素から構成されています。
費用の負担者は取引の慣例によって決まっており、売主は抵当権抹消登記などを、買主は所有権移転登記や抵当権設定登記の費用をそれぞれ負担するのが一般的です。
登録免許税は固定資産税評価額と税率から算出でき、要件を満たせば軽減措置の適用で税額を抑えられます。
司法書士報酬は事務所ごとに異なるため、複数の事務所から見積もりを取ることで比較検討が可能です。
これらの仕組みを理解し、計画的に準備を進めることが、円滑な不動産取引につながります。
